toraの日記

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詭弁のガイドラインへの反論

結構前にふと2chの哲学関連のスレッドを見ていたら詭弁ガイドラインなんてものがあった。読んでみたら間違いだらけだったのでこの記事でまとめて反論する。今回参照した詭弁ガイドラインはここ: http://d.hatena.ne.jp/keyword/%EB%CC%CA%DB%A4%CE%A5%AC%A5%A4%A5%C9%A5%E9%A5%A4%A5%F3 全体を通して言えることは、この詭弁ガイドラインを書いた人は詭弁以前にそもそも何が主張なのかをわかっていないであろうということ。1つ1つ反論していこうと思う。引用文は全て斜体にしておく。 例:「犬ははたして哺乳類か」という議論をしている場合 あなたが「犬は哺乳類としての条件を満たしている」と言ったのに対して否定論者が… 1.事実に対して仮定を持ち出す 「犬は子供を産むが、もし卵を生む犬がいたらどうだろうか?」 仮定を持ち出したからなんなのだろうか?否定側は、 if 犬が卵を生む then..... という仮定(precedent)をしているだけで、その帰結(anticedent)は述べていない。なので仮定は仮定なので結論ではない。よって詭弁というよりも、仮定と結論の区別がついていない点に問題があるのではないかと思う。なのでこれは詭弁(Argumentative Fallacy)とは言わない。なにせ何も否定していないし主張もしていないのだから・・。 2.ごくまれな反例をとりあげる 「だが、尻尾が2本ある犬が生まれることもある」 ごくまれな反例はむしろ正しい反論ではないか。詭弁ガイドラインを書いている側の主張はおそらく 犬は尻尾を1本持つ(前提1) よって尻尾を2本持つ生物は犬ではない(前提1からの結論) ということであろう。前提1は前提であり、これが絶対の法則であるということはない。よって尻尾2本の犬が実際に存在することを示すのは、前提1を否定し、主張の健全性を否定したことになる。 健全性:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%81%A5%E5%85%A8%E6%80%A7 また、尻尾が2本あるが他の特徴を見る限りで犬と考えられる生物がいたとすれば、尻尾の数で犬かどうかは決まらないということがわかるだけである。それか他の要因によって1本しか生えないはずの尻尾が2本になっているなども考えられる。 こういった論争は地動説と天動説の論争ににている。勘違いしている人が多いと思うが、別に地動説が間違っているとはいまでも証明できない。地動説でも惑星の位置を計算することができる。ただしマイナールールが多すぎてややこしくはある。なので天動説も地動説、どちらも同じ事象を説明することができているのに、なぜ私達は天動説を信じているか。それは天動説が地動説よりもより簡単に惑星の場所を予測することができるからである。これはオッカムのカミソリまたはクワインの著作On Simple Theories of a Complex Worldで、同じ事象を説明する理論が複数ある場合にはよりシンプルなものを採るべきだという主張で選ばれている。 オッカムのカミソリ: http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%A0%E3%81%AE%E5%89%83%E5%88%80 W.V.O.クワイン: http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%B3 3.自分に有利な将来像を予想する 「何年か後、犬に羽が生えないという保証は誰にもできない」 何年か後と言っているように、これは未来の話なのでいまには関係がない。そもそも、犬に羽が生えないという保証を誰もできないことがどうしたのだろうか?これは正しい指摘だし、この指摘が議論に関係あるのならぜひ行ってほしい。ただし未来に対しての保証が何もできないのはある種のニヒリズムかもしれない。だから現在ベースで考えよう、となるのかもしれない。議論の前に、そのコンセンサスがないことの方が問題。よって詭弁とか関係ない。 4.主観で決め付ける 「犬自身が哺乳類であることを望むわけがない」 記号論理で現す必要もないぐらいだが、望まれていることと観測された事実は別である。国語の問題なので詭弁とか関係ない。 5.資料を示さず持論が支持されていると思わせる 「世界では、犬は哺乳類ではないという見方が一般的だ」 これは詭弁で正しい。ちなみに資料があろうがなかろうが詭弁。Ad Populumと言われている。 特定の価値を一般的である、故に正しいと主張する論法である。ただし、一般的であることが正しさを保証しないことに注意しなくてはいけない。J.S.ミルのOn Liberty(自由論)において有名な引用がある: "If all mankind minus one were of one opinion, and only one person were of the contrary opinion, mankind would be no more justified in silencing that one person than he, if he had the power, would be justified in silencing mankind" (16) J.S.Mill On Liberty, Indianapolis, Hackett. 要約すると、多数が少数を黙らるという方法では多数の主張は正当化されませんよということ。おおっとまさにこの詭弁ガイドラインがやってることでした。 6.一見、関係がありそうで関係のない話を始める 「ところで、カモノハシは卵を産むのを知っているか?」 知ってるかどうかを聞いているので話の導入なだけかもしれない。詭弁とか関係なく、ただの話し方の問題である。この導入ではじまる内容が議論に関係あればぜひ行ってもらいたい詭弁?である。というか主張じゃない。 7.陰謀であると力説する 「それは、犬を哺乳類と認めると都合の良いアメリカが画策した陰謀だ」 これを結論とした証明できて、議論に関係があるならいいでしょう。これだけだと主張じゃない。 8.知能障害を起こす 「何、犬ごときにマジになってやんの、バーカバーカ」 これを詭弁と読む人はおそらく詭弁(Argumentative Fallacy)の意味をわかっていない。 バーカバーカ。 9.自分の見解を述べずに人格批判をする 「犬が哺乳類なんて言う奴は、社会に出てない証拠。現実をみてみろよ」 ここで使われている例は5.資料を示さず持論が支持されていると思わせると同じ。人格批判は人格批判で詭弁だが、この例は人格批判ではない。Xという考えを持っていて、社会にXという考えを持っている人がいないと言われて人格批判だと思うのはこの詭弁ガイドラインを書いている人の考えらしい。 10.ありえない解決策を図る 「犬が卵を産めるようになれば良いって事でしょ」 それを可能にするプランがあるのなら、別にありえなくない。思考の道筋に何がどうなればうまくおさまるかから考えるのは悪くない考え方である。ちなみにこれは主張ではないので詭弁とかそういうの関係ない。 11.レッテル貼りをする 「犬が哺乳類だなんて過去の概念にしがみつく右翼はイタイね」 だから何?主張でもなんでもないし、詭弁とか関係ない。 12.決着した話を経緯を無視して蒸し返す 「ところで、犬がどうやったら哺乳類の条件をみたすんだ?」 10.ありえない解決策を図るから入ってこの12になるのなら分かる。何がどうなればうまく収まるからから初めて、何が必要かを考えているだけである。決着した話を蒸し返すのは単純に議論の流れ上都合が悪いというだけで、この詭弁ガイドラインを書いている人はそうされると都合が悪くなるらしい。詭弁とか関係ない。 13.勝利宣言をする 「犬が哺乳類だという論はすでに何年も前に論破されてる事なのだが」 論破されているならどう論破されているかを示せばいいだけ。これを言うだけでは何もしたことにはならない。主張でもないし、詭弁とか関係ない。 14.細かい部分のミスを指摘し相手を無知と認識させる 「犬って言っても大型犬から小型犬までいる。もっと勉強しろよ」 そう言われると詭弁ガイドラインを書いている人は無知を認識させられるらしい。だから何。詭弁とか関係ない。そもそも主張じゃない。 15.新しい概念が全て正しいのだとミスリードする 「犬が哺乳類ではないと認めない限り生物学に進歩はない」 言ってることがよくわからない上に、例がおそらく言っていることと関係ない。とりあえず例に対しての指摘をする。ここで主張されているのは、犬が哺乳類であると考えないと(前提をおかないと)生物学に進歩はない、である。 if it is not the case that 犬が哺乳類, then it is not the case that 生物学は進歩する である。 否定を取り除くと、 if 犬が哺乳類, then 生物学は進歩する。 Contraposition(対置?)で元の文とtruthvalueが同じなのは 生物学は進歩する if 犬が哺乳類 でした。 仮定文は何も証明しない。主張じゃないので詭弁とか関係ない。Precedenceがあるなら別だが。 最後に 記号論理学において主張(argument)とは、"set of two or more sentences, one of which is designated as the conclusion and the others as the premises"である (9, The Logic Book, Bergmann, Merrie., Moor, James., Nelson, Jack. Higher Education). まとめると、主張とは2つ以上の文で構成され、その一部が結論、別の一部が前提として機能するものである。詭弁(argumentative fallacy)とは悪いリーズニングの仕方であるということを示している。これは、一般の人が陥りやすい間違った主張の仕方のこと。間違った主張の仕方がある程度パターン化され、間違っていると証明されたからこそ詭弁であると言われている。正しいかは知らないが、wikipediaに例が沢山あるので参考にして欲しい。 詭弁: http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A9%AD%E5%BC%81 というかargumentative fallacyでwikipedia検索をかけたら、日本語ページでは誤謬とかいうのに飛んだ。どうやら詭弁のページは英語のSophismのページにリンクされているようだ。誤謬のページがLogical Fallacyにリンクされている。英語が読めなくても実際にページを見てもらえばわかるのだが、Sophismのページには詭弁の例が1つもない。一方Logical Fallacyのページには詭弁の例一覧へのリンクがはってあり、詭弁のページと同じように例が沢山ある。明らかに間違ったリンクのされかたである。この辺に日本人の詭弁に対する知識の無さが現れているのかもしれない。ちなみにSophism/Sophistは今は詭弁と呼ばれるリーズニングを無知識の一般人に行うこと、または行っていた人達のことである。つまり詭弁そのものではない。 最後の最後にかなり大事なことで気をつけてもらいたいのが、この詭弁ガイドラインは 例:「犬ははたして哺乳類か」という議論をしている場合 あなたが「犬は哺乳類としての条件を満たしている」と言ったのに対して否定論者が… というフレームで議論が始まっていることである。 犬は哺乳類としての条件を満たしている、よっては犬は哺乳類だというのは、条件を満たせば哺乳類であるという大前提(presumption)がある。実際はそんな簡単に動物の分類はできないし、本来ならそこから議論されるべきなのだが、この詭弁ガイドラインはその一番大事なところをすっ飛ばしている。 犬が哺乳類かどうかを議論する前にどうすれば動物が哺乳類と考えられるかを先に議論するべきだ。つまり、議論の結論をどうやって下すかを話し合い、コンセンサスを取ることが必要になる。それをやらないで議論というのは、どうかと思う。結論の出し方を知らないのに議論って、議論は結論を出すためにやるのに・・。この詭弁ガイドラインがいう"議論"とは、そもそも議論として成立していないことに注意してもらいたい。